現代のロックシーンにはさまざまな変形ギターがありますが、その元祖といえばGibsonのフライングVでしょう。これだけ奇抜なデザインでありながら、今やスタンダードなギターとなりました。
現在も多くのギタリストから愛用されている、フライングVの魅力を解説いたしましょう。
この記事のポイント
フライングVとは?
ロックにおいてステージングは非常に重要で、変形ギターはステージングの演出に大きな役割を果たします。特にフライングVは長い歴史を持っていながら、現在も強烈なインパクトを放つエレキギターです。
フライングVの歴史や種類、ギターとしての特徴をご紹介しましょう。
フライングVの誕生
フライングVが誕生した1958年、当時のエレキギター・シーンはFenderとGibsonが争っていました。Fenderはストラトキャスターやテレキャスターなど、新たな技術を投入したエレキギターを販売。Gibsonはレスポールを販売していましたが、伝統的であるものの保守的なイメージがあっため新たなエレキギターの開発に着手したのです。
フライングVなど変形ギターの開発プロジェクトはモダニスティック・ギターズと呼ばれ、斬新なエレキギターが考案されました。斬新なギター開発プロジェクトで誕生したエレキギターが、フライングVとエクスプローラーだったのです。
現在はどちらも多くのギタリストから愛されているモデルですが、その当時はあまりに斬新なデザイン。ギタリストから受け入れられず、早々に製造が打ち切られました。
一度製造が打ち切られたフライングVですが、時代の変化とともに転機が訪れます。1970年代に入るとロックシーンはより過激な演出が求められるようになり、変形ギターのニーズが高まりました。
それまで限定的に再生産が行われたフライングVですが、なんと1975年からレギュラー・モデルとして生産が再開されたのです。マイケル・シェンカーに代表されるギターヒーローたちがフライングVを愛用するようになり、現在では人気エレキギターのひとつとなっています。
フライングVの年代別の種類
今や定番のモデルとなったフライングVですが、これまでに数回のモデルチェンジが行われています。
年代ごとのフライングVの特徴やスペックをご紹介しましょう。
58年製
フライングVが最初に登場したのは1958年で、アルファベットのVをモチーフにしたデザインは衝撃的でした。
フライングVはこれまでのエレキギターの常識を覆すボディシェイプですが、ハイフレットまでのアクセスが容易というメリットもあります。
58年製のフライングVはボディ材にコリーナが使用されており、その木目を生かしたフィニッシュが特徴。レス・ポールの木材であるマホガニーと比べて軽量であることから、このボディサイズにも関わらず軽量です。ボディ厚は約38ミリ、ネックのスケールは628.65でレスポールと同様です。
ハードウェアはゴールドパーツが使用されており、クルーソン・ペグ、チューン・オー・マチックを搭載。弦の振動をボディに伝えるため、弦はボディの裏通しです。
また座って弾くことが難しい形状であることから、ボディの下側にはゴムの滑り止めが貼り付けられています。
フライングVはこれだけ斬新なモデルでしたが、音楽シーンには受け入れられませんでした。その出荷本数はわずか98本です。
98本のフライングVの1本は、MOTLEY CRUEのミック・マーズが所有していました。『Dr.Feelgood』のレコーディングで使用したそうです。ミック・マーズって地味なイメージありますけど、職人っぽくて僕は大好きですよ!
67年製
すぐに製造が中止されたフライングVですが、1967年に限定的に再生産が行われました。
以前はボディ材にコリーナを使用していましたが、67年製はマホガニーが使用されています。ネックのスケールは628.65ミリで以前と同様ですが、ボディ厚は約33ミリで5ミリほど薄くなりました。ボディサイズもひと回り小さいので、取り回しが楽になっています。
ハードウェアはレスポールと同様に、チューン・オー・マチックとストップ・テイルピースを採用。そしてネックシェイプが細くなっているため、テクニカルな演奏も可能です。
ヘヴィメタルが大好きなので、フライングVはこの年代のモデルが一番お気に入りです。
75年製
1975年になるとフライングVはレギュラー・モデルとして製造されるようになりました。
基本的なスペックは67年製を踏襲していますが、ヘッドの付け根にコブのようなボリュート加工が施されています。これはネック折れを防ぐための加工です。
フライングVが誕生した1958年当時は受け入れられませんでしたが、それから約20年を経てようやく時代がフライングVに追いついたのです。
フライングVのプレイアビリティ・弾きやすさ
誕生から60年以上の歴史を持つフライングVですが、未だに多くのギタリストを魅了しています。フライングVに興味を持つギターキッズもいることでしょう。
フライングVのプレイアビリティを解説いたします。確かにクセの強いギターではありますが、多くのギタリストに一度は手にして欲しいエレキギターです。
サウンドの特徴
フライングVは非常に斬新なルックスで、ヘヴィメタルで使われるイメージがあります。
しかしマホガニーやコリーナなどのボディ材が奏でるサウンドは、非常に甘く軽快なサウンド。これはフライングVを愛用するブルースギタリスト、アルバート・キングを聴けば分かるでしょう。
フライングVは歪みを強めるとレスポールよりもトレブリーになり、ヘヴィメタルに適した攻撃的なサウンドになるのです。
“ブルースなんて興味無いよ”、“メタルは自分に縁の無いジャンル”そう考える方もいますが、未知のジャンルから得られる刺激って本当に大切です。同じフライングVを愛するギタリスト同士なんですから、これをきっかけに未知のジャンルをチェックしてみましょう!
弾きにくい?
レスポールやストラトキャスターはスタンダードなボディシェイプで、立って良し、座って良しのエレキギターです。しかしフライングVはそうはいきませんので、弾き心地が気になるでしょう。
フライングVを立って弾く場合、座って弾く場合の違いを解説します。
立って弾く
“いくら変形ギターのフライングVも、立って弾けば関係ないのでは?”そう考えてしまいますが、実は立って弾く場合に注意点があります。
フライングVは想像よりもボディが軽いため、バランスが取れずにヘッドが下がってしまうんです。これはヘッド落ちと呼ばれる症状。 ヘッド落ちは滑り止めの付いたストラップなどで防ぐことができますし、バッキングを弾く際はそれほど気になりません。
しかし問題はハイフレットでソロを弾く際でしょう。これは気になってしまいます。
弾きにくいフライングVを弾きやすくする方法は、下のツノを股に挟むフォームですね。これはフライングVの使い手であるマイケル・シェンカーのフォームで、バツグンの安定性を誇ります。あれはカッコつけているわけではなく、理にかなったフォームなんです。
しかしこのフォームで弾くのであれば、シールドのプラグに注意してください。ストレートプラグの場合、足をぶつけてプラグがポキリと折れる可能性もあります。そのため必ずL字プラグのシールドを使いましょう。
僕もVシェイプのギターでソロを弾く時はこのフォームですね!
座って弾く
58年製のフライングVは、ボディ下部にゴムの滑り止めが貼り付けられています。
これは座って弾きやすくするためなのですが、はっきり言って意味がありません。そのためフライングVを座って弾くのであれば、右足に乗せるという発想は捨てましょう。
フライングVを座って弾くなら左足に乗せて右足はVの股に入れるようにしてください。これで弾きやすくなります。とにかくフライングVは下のツノを股で挟むことがポイントです。慣れると楽なフォームです。また座って弾く際もストラップを装着しても良いでしょう。
これはアルバート・キングがやっていますね。
僕はストラトキャスターやレス・ポールも、クラシック・ギターのように左足に乗せて弾きます。テクニカル系のギタリストに多いフォームですね。
フライングVの使い手、マイケル・シェンカー
フライングVといえばマイケル・シェンカーでしょう。
巧みなギターテクニックとドイツ人ならではのクラシカルなメロディセンス、そして強烈な泣きを持ったチョーキングが特徴です。
現在もフライングVを使用して、第一線で活躍するマイケル・シェンカーの魅力に迫ります。
活動の歴史
1955年にドイツで生まれたマイケル・シェンカーは、17歳の若さでScorpionsのギタリストとしてプロデビューを飾りました。そしてオープニングアクトとしてツアーを回ったイギリスのバンド、UFOに引き抜かれます。これが1973年のことです。
卓越したギターテクニックで世界を魅了したマイケルですが、ドイツ人であることから英語が不自由でした。そのような状況でイギリスのバンドのUFOで活動を続けることは、マイケルにとって大きなストレスだったのです。
そこでマイケルはアルコールとドラッグに溺れてしまい、1978年にUFOを脱退してしまいます。その後は自身のバンド、MSGを結成して世界的な成功を手にしました。
UFOを脱退したマイケル・シェンカーですが、UFOの再加入と再脱退を経て、現在はこれまでに関わったバンドメンバーを集めた、MICHAEL SCHENKER FESTというプロジェクトで活動をしています。
ギター・プレイの特徴
フライングVを股に挟んだフォームでおなじみのマイケル・シェンカー。何よりもそのメロディセンスが評価されました。
これまでのロックシーンはブルースをルーツにしたプレイが中心。しかしマイケルはクラシックをルーツとする、流麗なメロディで世界に衝撃を与えたのです。
ワウ・ペダルを半止めにしてミドルを強調したギターサウンドも唯一無二でした。本来ワウ・ペダルは開閉して使用するものですが、マイケルは開閉せずに半分開いた状態で固定して使用したのです。フライングV、ワウ・ペダルの半止め、Marshallの1987がマイケルのサウンドの肝でしょう。
松本孝弘もワウの半止めを使いますが、これはマイケルからの影響でしょう。
感情豊かな泣きのチョーキングもマイケル・シェンカーの魅力です。MSGの『Into The Arena』、UFOの『Love to Love』などで絶品のチョーキングが堪能できます。マイケルは日本のファンから“神”と呼ばれていますが、その理由が分かるでしょう。
MSGの1stアルバムの邦題は『神』。ちなみにこれを名付けたのはヘヴィメタル専門雑誌BURRN!の初代編集長です。
フライングVの買取価格
実は、フライングVは特異なルックスから好むユーザーが限られており中古市場での人気は低いです。慣れないと弾きにくい点も買取価格に影響する一因と考えられます。
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【相場・査定例】Gibson (ギブソン)・フライングVの買取価格!高額査定が期待できるギブソン・フライングVのモデル